1998年3月1日日曜日

日仏「アダルト・チルドレン」事情とリフレ政策

いきなり私事で恐縮だが、私の家内はフランスで68年5月学生革命のころに青春を過ごした世代に属し、あれで昔はなかなか元気がよかった。今はすっかりいいおばさんになって、日本とフランスを往復する生活を送っているが、時として時代の風潮に義憤をあらわにすることもある。欧州でいつまでたっても親離れできない、いわゆる「アダルト・チルドレン」が急速に増加している現象は、実に問題であるという。

フランスでは30歳になっても親離れができず両親の家にとどまって一緒に生活している子供が5人に1人の割合で存在するとのことだ。われわれの知り合いの家庭でも例にもれず、息子がまだ親離れできず両親の家の子供部屋に暮らしている。最近は実に自分の「パートナー」までそこに呼び込んで生活し始めたとのこと。親の価値観に反発し、一刻も早い自立を目指したわれわれ旧世代の人間は、こんな話を聞いて、ただもう驚くばかりである。

背景にあるものはヨーロッパの深刻な失業問題である。特に若年層が苦しく、若者の4人に1人は大学を卒業しても職を見つけることができない。この構造的な問題が若者の生活姿勢を、極度にうち向きで消極的なものに変化させ、それが社会全体の保守化傾向につながってきている。失業問題が、単なる経済的な問題にとどまらず、社会全体の価値観をもむしばんでいるのである。

この現象は日本にとって決して対岸の火事ではない。日本においても親離れできない子供が増えてきているように思う。現にわが家のお向かいでは、子供がいつまでたっても巣立たないので、逆に親のほうが家を出て田舎に引っ越してしまった。日本の場合は背景に土地問題がある。まじめに働いても若いうちはなかなか自分の住宅を保有できないのだ。「二世代住宅」というへんなものも今やすっかり一般的になった。

フランスでは雇用が少数の就業者で独占され、既得権化していることが失業を生みだし、結果として「アダルト・チルドレン」を生み出した。日本の場合は、土地が少数の所有者(地主)で保有され、既得権化していることが地価を押し上げ、結果としてフランスと同じく「アダルト・チルドレン」を生み出している。やや強引だが、両国ともに「既得権」が親離れしない子供を生みだし、ベンチャー精神を窒息させ、技術革新も停滞させ、社会の保守化をもたらしているともいえる。「風が吹けば桶屋が儲かる」のたぐいの議論に似ているが「遠からず」だろう。

日本経済は、来世紀にかけて当分低成長が続くものと予想されている。少子化の傾向がこれにさらに拍車をかける。昨今、低成長はやむを得ない、その中で将来を考えねばならないとの議論が目立つようになったが、経済の停滞が社会の価値観の分野にまで影響を及ぼすようになってくると、やはり看過できない。無理をしてでも成長率の嵩上げが必要である。具体的には少々のインフレを容認してでも景気を刺激するリフレ政策をとらねばならないだろう。国債発行は子孫に負担を先送りするというが、「アダルト・チルドレン」は、少しは苦労させた方がよい。

(橋本)